殻を破るシヤツター

先日NHKで「殻を破るシャッター」といふドキユメンタリーが放送された。僕は偶然この番組を見たのだが
短編だがなかなかよく描かれたものだつた。耳に障害がある少年はカメラを通して他者との関係を築いていく。然しある日、「写真を撮らせてほしい」と頼んだ人にびつくりされてしまふ。少年はそれがシヨツクで人に声をかけることが出来なくなり、大好きな人間の写真が撮れなくなる。それ以来、人が入つた写真はどれもみな後姿だつたり、遠く離れた距離のものになる。奈良行きでの撮影では師匠が彼に課題を出す。それは外国人に声をかけて写真に収めて来いといふものだつた。彼は見事その課題をクリアーしトラウマを克服する。写真を齧つた人間としては彼の気持ちが痛いほどよく分かる。僕も色々なジヤンルの写真を撮るが、一番好きで楽しいのは「人」である。だが、黙つて見ず知らずの人にカメラを向けることは出来ない。一言断つてから撮影すればいいのだが、この一言を掛けるのがいかに難しいことか。それが出来ないばかりに撮りたかつたシーンを幾度逃したか数知れない。テレビに向かつて僕は彼を応援し、彼が殻を破つた時思わず声を出して喜んでしまつた。