哲学のない国

先日裁判所へ行つた時のことである。朝一番の審理は10時から始まる。10時から10時30分の間におよそ5〜7件の案件が詰め込まれ、以降30分刻みでほぼ同数の審理が消化されていく。案件の内容は「不当利得返還請求事件」が圧倒的に多い。この不当利得返還請求は過払い金返還請求と同義である。きつと過払い金〜は法律用語ではないのだらう。では不当利得とはなにか。法律的に利益を受ける根拠がないことである。ずいぶんと乱暴な話だと思ふ。貸金業者は政府、金融庁の指導のもとに金利を引き下げ続け、ガイド・ラインに縛られて営業してきた。出資法貸金業規正法の間の所謂グレー・ゾーン金利の問題は本来、業者の責に帰する問題ではなく立法府法曹界が放置してきたものだらう。それでも業者は金融庁の言ふ通りに営業し、最後には裏切られた。これを先導したのが最近不倫問題で話題になつた二世議員である。彼に言はせれば金利を下げ、貸金業者を淘汰すればわが国の自殺者が減るさうである。はたして2010年度の自殺者数は3万人を超へた。貸金業と自殺者の相関関係は現時点では立証されなかつた。彼の主張とは裏腹にきつとこの結果は彼自身予想していたのだと僕は思ふ。クリーンや正義のイメージ作りにこれを利用したに過ぎないのだらう。この国の政治家が汚いのはある問題についてとにかく原因となるものをひとつ作り上げ悪者とした上で徹底的にそれに責任を負はせることである。完全なる悪者をでつち上げ、すべてをそれの責任としてなすりつける。勧善懲悪といふ判り易い構図にする。正義のなの下で誰も反対し難い状況を作るのだ。これにマスコミが同調する。今まで悪者からさんざんCMで稼いだ筈のマスコミはガラになつてスープも取れさうにないと知ると一斉に攻撃側にまわる。何とも浅ましい姿である。この国には政治家も官僚もマスコミも哲学があるとは思へない。自殺者と業者の関連は立証されなかつたが、山積する諸問題の現状を見れば哲学がないこととの関連はうつすらとでも見へると思ふのだが。