古本屋めぐり

僕の楽しみのひとつは古本屋巡りだ。ずつと以前は新品の本しか買わなかつたのだが、近頃は古本しか買わなくなつた。僕の勉強不足と感性のアンテナがいかれてきたのもあるのだが、実際飛びつきたくなるような新刊が少ないのもその理由だ。また都内の大型店舗に行けばこの問題は解決するのだが、自宅と仕事場の11kmの間にはそんな本屋はなく、どの本屋も小さく、あまり魅力的な本を置いていない。古本屋の大手はとにかく数は揃えてある。中には眩暈がするほどの量を誇るところもある。本の並べ方も適切で著者名を五十音順にしてあるのが普通だ。個人の古書店はその辺のところがあまくいい加減のところが多い。その代わり、店の主人に「これこれ探してゐるんだが」と言へば無秩序に並べたと思はれる書棚から迷ふことなくその一冊を引つ張り出してきてくれたりする。きつと他人には分からない本人なりの秩序が保たれてゐるのだらう。 作家に入る稿料は新品の本の価格に含まれる。古本がいくら売れても作家は一銭も貰へない。だから新しい本を買ふことは作家の生活を助けることでもある。つまり作家なる職業が存在するのは読者のお陰なのである。作家を生かすも殺すも育てるもみな読者なのだ。だから以前の僕はそんな意味からも作家本人にきちんとお金が入る新品の本を買つてゐた訳だ。だが、最近では作家をこの世に存在させておくことよりも本屋や古本屋を存在させておく事の方が困難な時代になつてきた。その流れは電子書籍の登場でますます拍車がかかつてきてゐる。