公園に捨てられた猫その3


日本国内の犬には狂犬病の予防接種が義務付けられてゐる。これについて多くの人が何の疑問も抱かずにゐるのだが、実はこれが相当可笑しな話なのだ。狂犬病と聞けば犬がかかる病気、もつと言へば犬だけがかかる恐ろしい病気と漫然と思ひがちだが、かかるのは犬だけではない。狐だつて狸だつて罹病する。欧米では狂犬病ではなく恐水病と呼ぶ。
以前、野生動物に手を咬まれたことがある。
狂犬病を心配して近くの病院に行つたのだが、この病気は昭和三十八年?から今日まで(僕が診療を受けた時点での話)国内で発症した例はないのだと言はれた。つまり狂犬病はないらしい。
それでも犬の届出、狂犬病の予防接種は連綿と続く。これは何故なのだらう。
戦中に家庭で飼われてゐた犬も軍に供出させられたことがあつたと聞く。お上は戦争になつた時に犬を軍犬として徴用すべく把握しておきたいのだらう。故に民に届出を義務付けたと思へる。それでは予防接種は何のためか。これはきつと獣医や薬品メーカーの利権なのだらう。何れにしろ犬には迷惑な話である。その点猫は幸運である。軍部はまだ猫の持つ計り知れない能力を知らない。