体で覚える

両親には申し訳ないが、僕は頭のいい方ではない。頭の悪い方に属する。謙遜しているのでも卑下しているのでもない。事実である。一を聞いて十を理解するような能力は持っていないので分かるまでには時間がかかる。見聞きしただけでは到底覚えられないから一つ一つやってみて、失敗しながら覚えるしかない。理解するというよりは体に覚えさせるといった方がいいだろう。非能率的なやり方かもしれないが、これが僕には一番合っているし確実である。カメラの扱いも同様。分からない場合は説明書を引っ張り出して読んではみるが、読むだけでは覚えられない。何度も繰り返しいじってみてやっと実になる。撮影の依頼ではデジタルの指定も増えてきたが、こだわり続けてフィルムのみという営業写真館もある。僕の場合、デジタルの依頼の方が楽な気分で撮影出来るがそれに慣れているとフィルム指定をされた時に異常に緊張してしまう。撮影前、撮影中、納品後と緊張は続く。「未露光だったら」「ネガにちゃんと肉がのっているだろうか」「ピンは来ているだろうか」などなど心配の種は尽きない。現場で結果の確認が出来るデジタルにはない緊張感だ。納品から結果が出るまでの期間は僕にとって反省会の時間である。頭の悪い僕でも不思議とその日撮影した状況を覚えている。ボツ写真をその場で消去することが出来るデジタルでは後から思い出して反省会をすることが出来ない。フィルム撮影の時のように思い出せないのだ。これはあくまで私見ではあるが、フィルムでの撮影はデジタルに応用が利くが、デジタルでの撮影はフィルム撮影に応用が利かないのではないだろうか?以前からあった知恵は現代に通用するが、現代の便利な知恵は少し前の事に対してまるで役にたたないような気がしてならない。フィルムとデジタルの優劣などを論じる気はまったくないが、理解するというよりは体で覚える派の僕にはそう思えるのだ。やはり頭の悪い人間の戯言だろうか?