話せば分かる?

今の東京農業大学の創設者でもある武士、幕臣、政治家の榎本武揚が電気を知らない人に説明する滑稽なシーンが安部公房の小説の中にある。榎本の説明を聞いた上で「目に見えなくて、速いというと忍者のようなものか」と真剣に尋ねる場面である。宇野信夫の短編の中にも同じような話が出てくる。学校で雷の仕組みを習った少年は祖母に「雷は電気のプラスとマイナスがぶつかっておこるものだ」と説明する。すると祖母は「うそをついてはいけない。雷はランプの時代から鳴っていた」と答えるというものだ。前者は電気というものを全く知らない人に電気を説明し、聞き手は自分の知っている一番近いものの延長で考える。後者はランプにとって代わった電灯のみが電気だと思っている。分からない人に分かってもらうのは大変である。話せば分かるという言葉があるが、実はそうでもないらしい。ベストセラーとなった”バカの壁”の中で養老孟は「話せば分かるはうそだ」と書いている。小泉政権の時に野党が”非戦闘地域”について首相に質したところ「自衛隊の行く所」と答え、「では戦闘地域を地図で示してくれ」と詰め寄ると「そんなこと私に分かるわけない」と返した。あまりバカという言葉はブログに限らず使いたくはないが、まさしくバカを相手に喋っているようであった。時事通信社のアンケートでは”一番首相にふさわしい人”で件の小泉氏が堂々の1位だった。説明もろくに出来ず、分かってもらおうと誠実に努力もしなかったパフォーマーに一体何を求めているのだろうか?