京セラ スリムT

ここ1月ばかり35mm一眼レフを使っていない。桜の頃にはマミヤRB67とハッセルブラード500C/Mで撮影した。愛犬ノコを連れて川辺の桜を見ながら散歩した時はコンパクトカメラを使った。京セラのスリムTというプラボディの単焦点カメラだ。チープな作りだがレンズはカールツァイス銘のテッサー35mmが奢られている。AFが甘いとかAEを外すとか悪口を言われるカメラだがツボにはまった時の描写は秀逸。大げさに言えば3Dで見ているような立体感、コンパクトを超越した解像力、高いコントラストは特筆ものだと思う。同じタイプのカメラでT−PROOFも所有しているが、大きさ、軽さでスリムTに分があり、出動回数はこちらの方が多い。以前森山大道のような写真が撮りたくてコンパクトカメラばかりで撮影したことがある。ピントもAEもすべてカメラ任せ。故に狙ってから撃つ(シャッターを切る)までの時間はすこぶる短い。これだと感じたシーンを逃さずに写せるチャンスが増える。そう思ってフィルムを惜しみなく消費したのだが・・・。上がってきたプリントを見たら考えたものとは大きくかけ離れていた。乱暴な言い方をすると全てカメラ任せということは技術が要らないのである。その代わりにセンスが求められる。被写体に対して寄ったり、引いたり、角度、光や影や表情といったものを感じ取り、またそれを不自由なカメラの中で表現しなければならない。森山氏の絵にはエネルギーが感じられる。犬を撮れば犬の内臓を見せ付けられるような本質的で独特の絵である。暴力的な絵とも言えるかもしれない。但しそこには緻密な計算が感じられるのではあるが・・・。そんな試行錯誤を何度か経験した後に僕は自分に納得した。(=諦めた)そしてスリムTは僕の中で大切なお散歩カメラという不動の地位を確立した。