慶次郎縁側日記 「峠」評

慶次郎縁側日記を読み始めてかれこれなるが、発表順に読んでゐたつもりがさうではなかつたらしい。今は「峠」を読んでゐるのだが、ここにきて今までの北原亜以子評が少し変化した。絶賛して憚らなかつたのだが、「峠」についてはいささかいけない。他の本は殆どが短編形式の小説なのだが、これは中篇がメインに構成されゐる。明らかに話の長さが災いしてゐるのが見て取れるのだ。まとまりが無く、余韻も薄らぐやうな話の結び方が目に付く。書き上がつた原稿が真赤になるほど自分で校正する作者だと聞いてゐるが、これについてはさういつた作業があまりなされなかつたのではないだらうか。先ず文章が饒舌過ぎる。話を構成する起承転結の四つの部分のバランスが悪い。テンポ自体は短編とそれほど変はらなく、描写も巧い。だが以上のやうな点でせつかくのストーリーがぶつつりと切られ寸足らずの感を否めないところが惜しまれる。