無題

4月に降つた雪の影響で果物の出来が良くないといふ。梨は収穫量も例年よりも落ち込み、粒も小さい。収穫の時期もいくぶんずれ込んだ。いつもの年なら黄桃、梨、葡萄の順番で僕を楽しませてくれるのだが、今年は全部がいつぺんに来てしまい買ふのも食べるのも忙しい。時期がずれたからといつてその分遅くまで採れるわけではなく、農家にとつて実質減益となつてしまふのは間違いない。僕のやうにサービス業で口に糊してゐる者は収入が減ればその原因となつた相手が大概存在する。だから時にはその相手に対して責任の追及もするし、仮にさうしなくとも晩酌でそいつの悪口を肴にすることも出来る。だが農業では誰の責任でもなく、お天道様機嫌でそれまでの努力が報はれたり、台無しにされたりするのだからはけ口がない。生活は綺麗ごとばかりでは済まない。恨む相手がいないといふのは幸せなことではないやうである。彼らの忍耐強さはこんなところで培はれるのかもしれない。