CM評(タバコ編)


街を歩いてゐるとタバコ屋さんにはポツポツとお客を見かける。今月1日からの大幅値上げでさぞかし皆さん買ひだめをして店は閑古鳥かと思ひきやさうでもなささうである。禁煙を呼びかける俳優のCMがあるが、これがだうにも馬鹿馬鹿しく滑稽である。昔は煙草を吸ふことが格好いいと思つてゐたが、今は格好悪いだの、病院に行つてやめただのといふCMだ。子供が大人の真似をしたくて煙草に手を出すといふのはその姿が格好良く映つたのだ。だが、常習するやうになればいちいち格好がいいだの悪いだのと思つちやいない。一体彼はいつまで煙草を咥へる自分の姿にうつとりしながら煙草を呑んでいたのだらうか。病院に行つて止めるのは個人の勝手だが、あの手の俳優がそれを公言してしまふのはみつともない。霧が煙る波止場で男が「お前とはこれで終わりだ」などと言ひながら最後の一本に火をつけ、深く吸ひ込む。吐き出す煙がゆつくりと流れていく。男は振り返ることなく闇の中へと歩き出し、やがて見へなくなる。男が居た場所にはタバコと赤いバラが一輪残される。陳腐な絵ではあるが、せめて石原軍団の俳優ならばその位やるべきだらう。それがよりによつて病院に行きました、止められましたでは格好悪すぎる。お母さんに頼んで「うちの子と付き合ふの止めて下さい」と言つて貰ふやうなものである。大の男がみつともないことこの上ない。昔は映画やテレビでも小道具の一つである煙草を粋に吸ふ役者が多かつた。それを見て触発され煙草を始める人もあつたのは事実だらう。だがそれはあくまでも彼らが格好良かつたからである。だから真似してみたくなつたのだ。病院行つて止めましたはまるで格好良くないのだ。だからそれを真似やうなんて思はない。あのCMは本当に禁煙を呼びかけたものなのだらうか。それとも敢てみつともない姿を見せて禁煙=格好悪いといふイメージを植へ付けやうとしてゐるのだらうかと勘ぐつてしまふ。