むかし、むかし(時計編)

子供の頃から時計が好きであつた。生意気にも小学生の頃には親からのお下がりの腕時計を持つてゐた。確かセイコー社のアルピニストから始まつて5sports(ファイブ・スポーツ)などを所有したと記憶してゐる。僕が小学生の時分には塾に通ふ子も居たやうだが、僕はさういつたものとは無縁で家と学校の往復の生活だつた。友達と遊ぶにしても時間を決めてどこぞで待ち合はせるなんてこともない。だから僕の生活に腕時計などまるで必要なかつたのだが、そこは何でも背伸びしたがる性格の為せる業、大ぶりの腕時計は僕の左腕にいつもあつた。思い出してみるに当時(昭和45年頃〜)は時計のテレビCMがある時代であつた。確かラドーなどのスイス製の時計が元気であつたやうな気がする。その頃の僕のお気に入りの時計はテクノスのカイザー・シグナルであつた。文字盤の中に円形の窓があり、そこがウルトラマンのカラー・タイマーのやうに赤く点滅するものだつた。シグナルといふ名の所以である。後年、赤い光の点滅が実は光つてゐるのではなく、赤く着色された板状の部品が規則的に左右だか上下だかに動いてゐるだけといふことを知つた。それでも手品の種明かしを聞いた時のやうながつかりはしないし、憧れの気持ちは変はらない。昔好きだつたものは時が流れても色褪せないものなのだらうか。