ラレー・クラブ・スペシアル

ずつと自転車に乗つていない。最後に乗つたのは多分6月末だつた。猛暑と雨を避けて比較的涼しい日には乗るつもりだつたのだが、いつの間にかお盆の頃となつてしまつた。以前、ピスト以外には金輪際乗らないと宣言したが、それを撤回することになつた。多段変速機のある自転車を買つたのだ。それはラレーCLS(クラブ・スペシアル)といふ自転車で元々英国のメーカーである。現在はどこの国の資本なのか分からないが製造は台湾らしい。このラレーといふメーカーを知つたのは実は小説からである。ロン・マクラーティの【ぼくとべダルと始まりの旅】といふ本をふと読んだことに始まる。この中でラレーは主人公にあまりいい扱いは受けてないのだが、妙に気になる自転車なのだ。それは僕の自転車の乗り方と通じるものがあつたからだと思ふ。ピストの感覚を知つて以来、最先端の技術の塊であるスポーツ・バイクにはあまり興味がなくなつた。だが、ゆつくりと遠くまで僕を運んでくれるバイクは別である。ラレー。本の中ではモデル名は書かれてなかつたが、クロモリ、ホリゾンタルの美しい姿を僕は想像した。そしてクラブ・スペシアルといふモデルはその想像にぴつたりのものだつた。丁寧に処理された溶接部分、深みのあるワイン・レツドのカラー。船は英語ではSheと表現するが、自転車はどうなのだらう。僕にとつてこのラレーはSheであり、貴婦人の様なバイクである。