素敵な勘違い

ありがたいことに僕は最近すこぶる健康である。「元気と健康は別」と言ったのは俳優の故笠智衆さんだった思うが、僕の場合、元気で尚且つ健康を感じている。一言で言えば調子がいい。それでも毎月かかりつけの医院に行き、診察を受け、薬を出してもらい、それを朝、昼、晩と欠かさずに飲んでいる。歯医者でも定期的にメンテナンスをしてもらっている。今は無病息災よりも一つくらい持病を持っている方が自分の体に用心するのでいいらしい。それを一病息災と言うらしい。お陰でタバコも食事も旨い。タバコといえば何時だったか件の医院の看護婦さんに「タバコをやめましたか?もしやめるのだったら協力しますよ」と言われたことがあった。ノーテンキな僕はその言葉を聞いて「え?」と言ってしまった。てっきり彼女が個人的に協力してくれるのかと勝手に勘違いしたのだ。僕の可笑しなリアクションに気付いた彼女は「禁煙パッチとかありますから」とやんわりと僕の思い込みを打ち消してくれた。歯医者でも勘違いをしたことがある。僕の担当は若い女医さん。彼女は言葉使いがやたらと丁寧なのだ。診察椅子の背を倒す時に僕に「押し倒しますね」と言う。その時も僕は「は?」と言ってしまった。他の医師も患者さんもいる診察室でまさかうら若き女性から「押し倒しますね」などと言われるとは夢にも思わない。鈍い頭を回転させると「押し倒しますね」は「お椅子倒しますね」の間違いだと気が付いた。勘違いというよりは聞き違いなのだがいずれにしても恥ずかしい。だが僕にとっては素敵な勘違いである。