チギレは何処に・・・

少し前に我が家に迷ひ猫が来た。やせつぽちの三毛猫なのだが、色の入り方が宜しくない。白、茶、黒の配色がつぎはぎだらけなのだ。だが、性格はすごぶるいい。きつと人に飼はれてゐたことがあるのだらう。耳が裂けてゐる特徴から【チギレ】と名付けた。猫特有の纏はり付く仕草で餌をねだる。相当腹が減つてゐたのだらう。ノコのカリカリ餌を与へるとぺろりと平らげその後、二度お替りをした。翌日も彼女はやつて来て妖艶に纏わり付き、餌を食べた。事件はその後に起こつた。前の公園から猫同士が喧嘩する大きな声がした。その日以来、チギレは姿を見せなくなつた。だが、餌だけはきれいに無くなる。そつと来て食べて帰るのかな、とも思つたのだが、何となくそれにも自信が持てない。何か違ふ気がするのだ。チギレだつたら「来たよ、来たよ」とみやーみやー啼きながらアピールする筈である。それが怪盗ルパンの様に姿を見せずにお宝だけは確実に頂戴するなんてことをするとは思へない。チギレは餌も欲しかつたのだが、同時に愛もほしかつたのだから。(自分でも馬鹿馬鹿しいとは思ふのだが、猫好きの方には理解出来ると事である)そんな日々が幾日か続き、やつと誰が餌を食べてゐるのかが判明した。昔からこの辺りを縄張りにする白黒の猫であつた。チギレはこの猫との覇権争ひに敗れこの地を追はれたのだらう。きつと白黒にこてんぱんにやつつけられたに違ひない。僕としては二匹が仲良く食べるのであれば餌を二倍にするはやぶさかではないのだが、厳しい動物の世界ではそんなことは無理なのだらう。勝者は全てを得て敗者は全てを失ふ。かくしてチギレは僕の元を去つて行つた。今はただ彼女がどこかで元気に暮らしてゐることを祈るばかりである。持ち前の人懐つこさを存分に発揮して誰かに可愛がられてゐてくれと願ふ。グツド・ラツク!