ATMニンニク汚染事件

銀行のATMでのこと。路面に建つてゐるといふか設置してある箱のATMである。
僕がそこに行くと既に箱の中にはYシヤツを着たサラリーマン風の男が中で操作してゐた。当然僕は箱の外で彼が出てくるのを待つことになる。そこへ女性がやつて来て僕の後ろに並んだ。またまた女性がやつて来て並んだ。暫くして中の男性が箱の外に出た。僕は速やかに箱の中に入つたのだが・・・この密閉された空間が恐ろしいニンニク臭なのだ。きつと先ほどの男が昼食に餃子だか、ニンニク入りのラーメンだかを食したのに違ひない。他人の吐くこの手の臭さはたまつたものではない。鼻で息をせず、口で呼吸するといふ手もあるが、これとて何だかとてつもなく体に悪いものを体内に入れてしまつたやうな気になる。早くこの箱から出なければとトツプ・スピードで機械を操作して用事を済ませた。が、ここからが問題である。僕の後ろには二人の女性が並んで待つてゐるのだ。彼女達が偶然にも末期の蓄膿症を患つてゐるか、鼻呼吸はしない主義でもなければ必ずこの悪臭に気が付く筈だ。このまま涼しい顔をして僕が箱から出るときつと彼女達はこの激臭の原因が僕にあると勘違ひしかねない。誤解を招かないためには僕が何らかの工夫をする必要がある。「僕の前の男がニンニクを食べたらしく中がとても臭いですよ」と次の人に言つてやるか、「ううう、すつごく臭い、臭い」と
言ひながら箱から出るか。顔を歪めて口元にハンカチでも当てて出てみるか。どれもわざとらしいとも言へなくもない。あまりに演技が下手だと【迷惑な悪臭をATMの中に撒き散らし、尚且つそれを人の所為にしやうと企てる姑息な奴】と思はれてしまふのだ。気が小さな僕はこんなことまで心配してしまふ。幾つかの作戦のうち結局僕はいかにも箱の中で息を停めてゐたといつた様子で箱を出た瞬間に大きく息を吐き、吸い込んだ。そして素早くその場を立ち去つたのだが、果たしてこの作戦の成果はだうだつたのだらう。