食について

米原万里氏の著作の中で、不味いものを食つてゐる民族は戦争に強いといふ意味の一文があつた。他国に侵攻した際、普段美味いものを食つてゐる兵士は現地での食に嫌気がさして士気が下がつてしまふらしい。反対に普段から粗食しか知らない兵士はどこに行つても食に対する不満が出ない。戦の勝敗はそれだけで決まるものではないにしてもあながち的外れではない気がする。俳優業と監督業を兼ねるC・イーストウツドは自分の映画を撮る際、役者やスタツフに毎日最高の食事を饗すると聞く。彼曰く、美味いものを食はなければいい仕事は出来ないとのことだ。さて、これは飽く迄僕個人の主観であるが、食べ物が美味しくない国はどこかと考へると米国、英国が上位に来る。いつぞやテレビで英国の一般人の食事を紹介する番組があつたが、実に粗末であつた。暖めるだけで調理する必要のないインスタント的なものばかりが食卓に並んでゐたのを覚へてゐる。親から子へ受け継がれる家庭料理のやうなものは少ないらしい。では英国は初めからさうだつたのかと言ふとそれは違ふ。テレビでは産業革命以前はこの国でも家庭料理はあつたさうだ。それが産業革命により多くの労働力が求められ家事に費やす時間が会社や工場の労働にシフトしていつた。その為外食産業や調理済み食品、インスタント食品などが重宝されることになつたらしい。そして英国の家庭料理は廃れていつた。 今我が国ではコンビニが自社ブランドの惣菜の販売に力を入れる時代になつた。少人数の家庭では一人や二人分の食事を作るのは手間ばかりかかつて不経済らしい。そこでコンビニのこのやうな商品が付け入る隙間が出来る。商売になるからやるのだらうが、僕には哲学が欠けてゐる気がしてならない。人々が肉や魚、野菜といつた素材を買はず、出来合ひのものを買つて食ふ。
その結果、将来この国の食文化が衰退し、人々の舌が馬鹿になるのは悲しいことだ。それと引き換へに戦争に強くなつたとしても。