主君の仇、親の仇

 薩摩藩には郷中教育といふものがある。知識のみを詰め込む今の教育とは違つてケース・スタデイとでも言つたらいいのか、要するにこんな時は何とする?の教育なのだ。三つの中から答を選ぶのではなく、自ら考へ、その根拠を説明しなければならない。
 ロシア語通訳の故米原真里さんは子供の頃、ソ連の学校に通つた。帰国し、日本の学校のテストを受けてびつくりしたさうだ。○かXか、ABCなどから選んだものを記入する問題ばかりが並び、自分の考へを述べる設問がなかつたことが衝撃だつたと自著に記してゐる。
 せつかくだから郷中教育の問題をひとつ。
 主君の仇と親の仇、どちらを先に打つべきか?
 武士の子なれば主君の仇と優等生的な答が正解に思へるでせうが、さにあらず。驚くなかれ、その答は先に出会つた方。すばらしく合理的な考へ方で感心させられます。