Fの兄弟たち

昔々、もう30年以上前の話。ずいぶんと怪しい僕の記憶に間違いがなければ一番最初に触ったカメラはNikonFだったと思う。それは小学校時代の担任が持っていたカメラだ。ファインダーを覗き、ピントリングを回し、レンズを通して結ばれた像を見た時の驚き、感動は今でも薄ぼんやりとだが憶えている。今考えてみると当時彼は若く、ましてや小学校の教員の給料ではとてもじゃないが買えるようなカメラではなかった。だが何故か彼はその後発売されたF2もすぐに買った。持ち物にはこだわりのある人でパーカーの万年筆、ダンヒルのライター、ナカミチのアンプ、JBLやタンノイのスピーカーなどいい道具を多く持っていた。授業中に「俺はお手伝いさんがいる家に生まれ、お坊ちゃんと呼ばれていた」といったような、つまり資産家の子であるようなことを言っていたが、あながち冗談ではなかったのかも知れない。話は過去から急に現在に戻るが、昨日、今更ながらNikonF4を買った。F3、F5、F6と所有していたが、F3は売ってしまいF5,F6だけが残っていた。今までF4はどうも質感が馴染めずに持つ気になれなかったのだが、いつも顔を出す店に陳列されていたF4は大事に使われていたらしく外観もフィルム室もきれいなままで目を引いた。そして何よりもプライスカードに書かれた価格は目を疑いたくなるようなものだった。¥28,900-!なんだかとても可愛そうな気持ちになった。それは捨てられた子犬を「家においで」と連れて帰るような感情に似ていた。前に「最近カメラの整理を始めている」とブログに書いた。それとはまるで逆行する行為だが「誰かいい人に貰われるんだよ」と言ってその場を立ち去る事が出来なかったのだ。AEファインダーを外し、中の埃を丁寧にブロワーで吹き飛ばしてもらってF4は僕の家に来た。その体躯に似て電池の大食らいぶり、AFの遅さなど欠点はあるが、ファインダーだけは今でもトップクラスの優秀さだ。AFの弱いカメラと考えずに限りなくマニュアル機に近いAF機と位置づけた方がF4も僕も幸せでいられるだろう。そんな訳で今ドライキャビの中では6兄弟のうち4・5・6とNikonAF機が並んでいる。