素性

中学生の頃、BCLラジオが流行った。遠い異国の短波放送や深夜放送を聴いた。その後、流行はラジオからオーディオへと移り、電気屋さんを回ってはソニーデンオン、ダイアトーン、テクニクスだの各社のカタログを貰ってきては友人と「ワウ・フラッターがどうの、S/N比がどうの」と話をしたものだった。男子の持って生まれた特性なのか機械モノを語る時に一番重要視されるのがスペック。デザインも勿論大切なのだが、何よりもスペックが高い機種が好まれる。この一種馬鹿の一つ覚えのようなカタログ数値信仰は大人になっても変わらない。カメラでいえば秒間何枚撮れるか、視野率はいくつかなどでビギナー、中級、プロ機と格付けされる。車であれば出力、トルク、cd値などなど。確かにスペックはその機械の持つ能力を表しているので無視は出来ない。だが、機械は人が使うもの。決してカタログ上には出てこない性能というものがある。車だと視界の見切りの良さや、シートの心地よさ、室内で聞こえる騒音の種類など沢山の要素がある。以前乗っていたスウェーデン製の車サーブなどは見えない性能の宝庫だった。真冬にエンジンに火を入れるとヒーターからは情け容赦なく冷気が吐き出されるのが一般だが、サーブはエンジンが温まって設定した温度になるまでヒーターは作動しない。温まるとどこから暖気が出てくるのか分からないくらい自然に室内温度を上げる。デロンギのオイルヒーターに似ているといえばわかりやすいだろうか。シートヒーターは素早く効き、そして心地いい。まるでいいお湯に浸かっているような感覚だ。乗り心地はセダンでもハッチバックでもあまり良くはない。結構道路のゴツゴツ感を拾う。だからなのか運転していて眠くなることはない。適度なのかどうかは判断に迷うが、タイヤから伝わる情報は緊張感を与える。これらはカタログでは分からない性能だ。使ってみて初めて分かるモノの素性なのだ。少し意味合いは違うが昔から「馬には乗ってみろ、人には添うてみろ」とは言うがけだし名言だと思う。