ごめんなさい

朝から嫌な事があった。久しぶりの自転車での通勤途中のことだ。左右に畑が広がる片側一車線の道。左側を走る僕の前方にカラスが一羽。カラスはトントントンと跳ねるような足取りで時折センターラインに近づく。その先には白い紙かビニール袋のようなものがあり時折舞い上がる。カラスはビニール袋を突いては歩道のラインまで戻る行為を繰り返す。僕は自転車を走らせる。歩道のライン上にいたカラスは僕との距離を2,3メートル残して飛んでいった。僕がビニール袋だと思っていたのは子猫だった。三毛猫で少し耳の垂れた子だった。生まれてまだ2ヶ月も経っていないだろう。僕は自転車を停め車道の真ん中にいる子猫を拾い上げようとした。そこへ車が走ってきた。子猫は僕の目の前で轢かれてしまった。そして何度か痙攣をした後動かなくなった。何台かの車が死んでしまった猫を迂回するようにして走り去った。僕は猫を歩道の内側まで連れてきて畑の隅にそっと置いた。迂闊だった。カラスに追い立てられた猫は気が動転していた筈だった。助けてあげるつもりが逆の結果を生んだ。可愛そうなことをしてしまった。あと何分か遅いか早いかしたらこんな事にはならなかったかも知れないなどと自分と子猫の巡り合わせを呪った。僕は死んでしまった子猫を後にして再び自転車を漕ぎ出した。走りながら今目の前で起こったことを思い返した。僕の行為は迂闊だった。それを否定するつもりはない。自己弁護をしようとも思わない。だが、少し冷静になって考えるとあの子猫の運命は決まったいたのかも知れない。変える事の出来ないことだったようにも思える。老練なボクサーのヒット・アンド・ウェイのように近づき、突いては歩道のラインまで退くカラス。カラスは子猫を最初から車に轢かせる魂胆だったのだろう。そこへ偶然僕が通りかかった。そして思惑通り子猫は死んだ。死んだ子猫を僕はわざわざ車道から拾い上げ畑の隅に置いた。カラスは僕に子猫を運ばせたのだということに気がついた。やりきれない気持ちだ。子猫に謝りたい。