昔、見た、夢

小説で主人公や登場人物に夢(寝て見る夢のこと)を見させる場面がある。
僕はあれが嫌ひである。
安直で苦し紛れの感が否めないのだ。
作中で夢を効果的に使つてゐるものもあるのだが、ストーリーを進めるためのご都合が感じられるととたんに興醒めしてしまふ。
さて、以下は作り話ではなく、本当に僕が見た夢の話だ。意図も都合もない話だ。
多分、僕が小学校に上がる前の時分のことだと思ふ。
昔から記憶力が悪い僕が、何故そんな昔の夢のことを覚へてゐるのか。
理由はあまりにも単純であり、そして当時とても怖かつたからだ。
では、どんな夢だつたのか。
真つ白な画用紙をイメージして頂きたい。
その紙の中にぽつんと胡麻粒のやうな小さな黒点がある。
夢の中でこの黒点は時分であると意識してゐる。
端の方から筆だか、マジツクだかで白い画用紙は真つ黒に塗りつぶされてゆく。
どんどん白い部分は狭くなり、やがて胡麻粒も黒に飲み込まれてしまふ。
生きる領域がなくなるのが怖かつたのか。
黒に埋没するのが怖かつたのか。
とにかく怖かつた。
石月さんからコメントを貰つてふとこの夢のことを思ひ出した。
氏からのコメントと僕の夢のどこに関連があるのかを説明するのは僕の知力、筆力では
到底無理だが、僕の中ではしつかりとリンクしてゐる。