カレンダー

月が替はりカレンダーを捲つた。保険会社から貰つたそれは表に何処かの風景写真が印刷されてをり、裏は真白で厚手の紙で出来てゐる。一月を勤め上げ、お役ご免となつた後、それは次にメモ用紙として再利用される。半分に折つてナイフで裁断しながら今読んでゐる文庫が裸であることを思ひ出す。二つになつた紙のうち一枚を使ひブック・カバーにした。これで電車の中でも何を読んでゐるのか他人に分かる心配はなくなつた。読みかけのそれは人に隠さなければならなゐやうな悪書ではなゐ。だが、本といふのは読み手の性向や知的レベルなどを映す鏡のやうな気がしてつひ人の目から遠ざけたくなる。たつた一冊の本で生活や思想、信条、受けた教育、育つた家庭環境など様々な個人情報が類推されてしまふ気がするのだ。故に他人に見られると恥ずかしい心持になる。丁度、女性が自宅の台所や冷蔵庫の中を他人に見られるのを嫌がる気持ちに似てゐる。こんな大袈裟な危惧を持つ心情は今の若人には到底理解不能だらう。何しろ電車の中で化粧をする子がゐるご時世なのだから。