書評

佐々木譲氏の「わらう警官」を読み終へた。悪くはないのだが、やはり前回と同じでラストがいけない。婦人警官を殺害した警察官僚を追ひ込むまではスピード感もありいつきに読ませる。主人公は被疑者である石岡部長が自ら出頭するといふ約束を取り付ける。これにより濡れ衣を着せられてゐるかつてコンビを組んだ同僚を助けることが出来ると考へるのだが、この辺りの詰め方があまりにも甘い。それまで切れ者として描かれていた主人公がここに来ていきなりど素人以下になつてしまふことには小説の出来として失望を禁じ得ない。終わり良ければすべて良しとはよく言つたもので前半が多少つまらなくとも後半面白ければそれなりの評価がつく。だが、その逆だと作品の持つ力以上に評価を下げてしまふと思ふ。作り手は不当と感じるだらうが・・。
 夏だからといふわけではないのだが昨日から浅田次郎の「あやし うらめし あな かなし」といふ怪談小説を読み始めた。小説家が敢えて難しい字を使ふことを僕はあまり好まないのだが、それにしても最近の若い小説家の文章は平易に過ぎると思ふ。分かり易く書かうとの意図ではないだらう。ただ単に言葉を知らないのが実情ではないか。少なくともさう推測されるほど稚拙な文章と言葉の使い方が目立つ。小説家は文字を使つて話を組み立てるのが仕事が、その他に読者に勉強を強いることも必要だと思ふのだ。プロとアマが同じレベルであつてはならないだらう。「あやし〜」は勿論プロの仕事を感じさせる作品である。