ちよつと・・・

日本ほど商品の包装が丁寧な国はないさうだ。世界中を見て回つたわけではないので事の真偽は定かでないが。確かにものを包むだけでなく、時には帯を掛けたり、熨斗をつけたり、それをまた風呂敷に包んだりと幾重にもする。それほど丁寧に扱はれたものは貰ふ方も当然の如く気を使ひながら包装を解く。話は飛んで「ちよつと」と言ふ言葉がある。テレビの街灯インタビユーなどで「〜について意見を聞かせて下さい」などとマイクを向けると「ちよつと分からない」なんて返つてきたりする。これをストレートに受け取つてしまふと「ちよつと分からないといふことは大方は理解してゐる」となる。日本語のちよつとにはちよつとの後には大概否定的な文脈が続くといふ使い方があるので実際には分かりませんと言い切つてしまふのをやんわりとした感じにする効果がある。だから「ちよつと分からないと言つてゐるだらう」「ちよつと分からないならばかなりの部分はわかつてゐるのだらう」なんて言ひ合ひになることはない。この「ちよつと」は言つてみれば包装に当たる言葉なのだらうと思ふ。分からないといふ言葉を裸のまま相手に渡すのではなく、柔らかく包んで渡すための包装紙なのだ。こんな精神性、習慣を持つ国であれば包装が丁寧なのも頷ける。それにしてもこの「ちよつと」、厄介な言葉である。ちよつと待つては少し待つて。ちよつとは名の知れたなんて使ひ方の時は、かなり名の知れたとまるで反対になつてしまふのだから。日本語を学ぶ外国の人には難解な言葉に違ひない。