道楽

道楽といふものはどの道にもありさうである。「普請道楽」といふ言葉がある。落語の「牛ほめ」といふ話である。新築したおじさんの元へ与太郎が訪ねて行き、その家を誉めるという内容なのだがそこは落語である。お父つあんから教わつた誉め言葉を与太郎がそのまま言へる筈がない。「お家は総体檜造りで〜」までは良かつたが庭を誉める段になつて「お庭は総体御影造り」と言ふべきところを「お庭は総体見かけ倒し」、畳を誉める時は「備後の五分縁」を「貧乏のボロボロ」と言つてしまう。落とし話だから聞き手は大口を開けて笑つて済ますことが出来るが、中には笑ひ話で済まないやうな道楽もある。ゴルフでは「ハンデ10になつたら家庭を壊し、5になつたら仕事をなくし、3になつたら人生を壊す」といふ言葉がある。随分と古くからある言葉ださうだ。そこまでになるには相当の練習を必要とするのだらう。結果として家庭は顧みず、仕事はせず、やがては人生を壊すといふことだらう。かうなると道楽を通り越してゐる。笑へない話になつてくる。 振り返つてみれば僕も随分と道楽をしてきた。オートバイ、車、時計、カメラとおよそ男の罹るウイルスには大概感染した。物欲の命じるままに安物を買つて銭を失ふ結果に自らの学習能力の無さを嘆くこともしばしばあつた。流石に最近はさういつたことは無くなつたがそれでも基本的に安い物には触手が自然と動く。過去の経験から学んだことも大きからうが、それよりもやはり年齢とともに購買意欲といふアクセルの踏み込みが甘くなつたのだらう。決してブレーキを踏む力が強くなつたのではないと思ふ。結果としてまだ笑い話で済ますことが出来てゐるのだから加齢も悪い事ばかりじやあない。