対立の構図

 僕の父親が怒つてゐる。何が不満なのかと尋ねてみると世間やマスコミが使ふ「老人が増加してゐる」といふ表現が面白くないさうだ。彼に言はせれば「俺達は生きてきただけだ。そして歳をとつた。それだけのことだ。どこかから老人が大挙して流入してきたのではない。人は必ず死ぬ。さう考へれば老人は減ることはあるが、増加はしない」といふ理屈らしい。老人が増加〜は人口に占める高齢者の比率の話であることは分かつた上での話しだ。が、当人達にしてみればデリカシーに欠ける負の表現なのが気に入らないらしい。
 歳寄りは生産性がないだの、医療費が嵩むだのと社会から厄介者と位置づけられ、脛齧りの若者達は妙な負担を感じる。全部彼ら(高齢者)の責任なのだと刷り込まれる。
 高齢者と若者の対立。これはお上の常套手段だ。民と民を反目させるやり方は漁民と農民、保証される側とされない側、男と女、生産者と消費者、挙げればキリがない。